俳句の作り方 悴むの俳句
腹と背に愛と憎しみ悴むる 伊庭直子いばなおこ
はらとせに あいとにくしみ かじかむる
この句は2022年3月号の『河』誌に掲載されました。
悴むが冬の季語。
寒さで手足の指だけでなく心も縮みあがった状態を言います。
腹と背に愛と憎しみ悴むる
腹つまり正面は愛。
背つまり相手には見えないところでは憎しみ。
相反する感情が私の心身に同時に存在します。
私だけではありません。
愛憎はどんな人にも同時に存在する相反する感情なのです。
私はとくに家族に対してそうでした。
愛情も憎しみも抱いていました。
ただ憎しみを表に出すと和が壊れてしまいます。
ですから「背」にとどめておいたのです。
それで良かったのだと今でも思っています。
憎悪は愛の夢を台無しにしてしまいますから。
そして相反する感情は心を悴めさせます。
腹と背に愛と憎しみ悴むる
悴むを用いた有名俳人の句をご紹介します。
心中に火の玉を抱き悴めり 三橋鷹女みつはしたかじょ
しんちゅうに ひのたまをだき かじかめり
火の玉と表現されているので怒りでしょう。
激しい怒りを抱き続ける鷹女。
穏やかな心持ちだと心が悴むことはないのです。
火の玉という熱と悴めりという寒気の対比。
心中に火の玉を抱き悴めり
愛が深いほど、相反して憎しみも深いのでしょうね。伊庭さんの句を念頭に自分に問い掛けてみました。果たして私の愛は深いのだろうかと、
恥ずかしながら、多分、伊庭さんが持っている愛程に深くは無いのだろうと思われます。
何故なら、憎しみが気薄だと言う事は愛も気薄なのだろうかと思うのです。
もっと愛僧の相反する人生を生きないと駄目だなと、遅まきながらふと思いました。